【BIコンサルタントが語るコンサルコラム】
第56回:あの人なら……

第56回:あの人なら……

いつもお世話になっております。IT コンサルティングサービス部の長榮(ナガエ)と申します。
システム構築・IT・業務改善・業務改革に関する情報や、業務において日々感じていることを、 この場をお借りしてお話しさせて頂くコーナーです。今回は 56 回目。

先日、少人数で多くの業務を抱えておられるお客様との会話で、ある業務コンサルタントから、
「やったこと、やっていること、全てを記録に残しなさい。」とアドバイスを受けたのだと伺いました。
「確かにそうだよな~って思ってるんだけどね~、でもねぇ……。なかなかねぇ……。」とのご感想。

このアドバイスは正しいのでしょうか。
業務を見える化しなければ改善は難しいですし、引き継ぎも大変です。何をやっているのかが分からなければ、 組織として立ち行かなくなります。残しておけば、「あの時どうだったっけ?」と後から辿ることができます。
ですが、目の前の仕事だけでも手一杯なのに、「全て記録してください」と現場に求めるのも酷な話ですよね。

さて、昔から、「コピーを作れ」とよく言われてきました。長榮マークⅡ、いや、長榮 2 号を作れ、と。
その度に「絶対に無理です。そもそも、その発想や比喩が嫌いです。」と過剰に反応してきました。

同じ経験をしても、同じ本を読んでも、同じプロジェクトに関わっても、そこから何を受け取り、 何を学ぶかは人それぞれです。経験も知識も価値観も違う以上、同じ人にはなりません。だから私は、 「コピーを作る」という言葉が好きになれないのです。もちろん、比喩であることは分かっています。
それでも、そんな一言で片付けられるほど、人は単純ではないと思うのです。

以前のコラム(※第49回参照)でも触れましたが、私が社会に出た頃は「自分探し」が流行した時代でした。
「本当の自分を見つけよう。」「自分らしく生きよう。」そう言われて育ってきた世代です。
なのに、社会へ出ると今度は「コピーを作れ」と言われる矛盾への反発でもあります。

一方で、「属人化をなくそう」という考え方は理解できます。特定の人しか分からない仕事はリスクですし、 引き継げなければ組織として困ります。では、「コピーを作る」でもなく「属人化は放置」でもないとしたら、 何が受け継がれているとよいでしょうか。

先のコラム(※第49回参照)では「理想を纏う」という話を書きました。判断に迷ったとき、 「あの人ならどう考えるだろう」と、自分の中で「理想像を纏う」という考え方です。
私が「あの人なら……」と考え始められるのは、その人自身がそこにいるからではありません。
知識や経験だけではない、その人から受け取った何かが、自分の中に残っているからだと思うのです。

哲学者ポランニーの「暗黙知」という考え方は、この感覚をうまく表しているように思えます。
彼が示したのは、「私たちの知識の土台には言葉にならない部分がある」ということでした。

「私は人間の知を再考するにあたって、次なる事実から始めることにする。
すなわち、私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる。」
― 出典:暗黙知の次元
― マイケル・ポランニー (著)、高橋 勇夫 (翻訳)

「全部記録しなさい」も「属人化をなくそう」も、想いは同じです。その人がいなくても、業務が回ること。
記録できるものは、残せばよい。仕組みにできるものは、仕組み化すればよい。その人にしかできない作業を、 誰でもできるようにしていく。それが、なくすべき属人化です。

私たちは、経験や知識など自分が受け取ったものの全てを言葉にできるわけではないのです。
それでも、確かに何かを受け取り、それが自分なりの判断や行動につながっています。

理想を纏い「あの人なら……」と考えられるようになるのは、その人から受け取った何かを、 無意識のうちに自分の中で再構成しているからです。だから、あなたも私も、誰のコピーでもないのです。

配信日:2026年7月28日

長榮 智和 / Tomokazu Nagae
ITストラテジスト / プロジェクトマネージャ / システムアーキテクト / PMP

2002年新卒入社。大手電機メーカー様の業務に長年従事。要件定義から開発/導入/運用/再構築と各フェーズを経験。 後半の10年程は、SCM・PSI領域の見える化(BI)業務にて PM・IT企画構想担当。中国(蘇州)・インドネシア(ジャカルタ)への海外出張も経験。 現在は、BI・IT コンサルタントとして、業務整理・業務改善・データ可視化などに携わっている。

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