【BIコンサルタントが語るコンサルコラム】
第57回:決定論と確率論
第57回:決定論と確率論
いつもお世話になっております。IT コンサルティングサービス部の長榮(ナガエ)と申します。
システム構築・IT・業務改善・業務改革に関する情報や、業務において日々感じていることを、
この場をお借りしてお話しさせて頂くコーナーです。今回は 57 回目。
ファインマンはアメリカの理論物理学者であり、ノーベル物理学賞の受賞者です。
彼の説明から私が受け取ったのは、「自然がそう振る舞う以上、それを受け入れるしかない」ということでした。
「ファインマン物理学」は大学レベルの教科書。社会人になってから「ちゃんと勉強をやりなおそう」と
気合を入れて購入したものの、本棚のオブジェと化しています。
「まさに、物理学はあきらめてしまったのである。ある与えられた状況のもとで
何がおきるかを予測する方法を、われわれは知らないのである。そして現在では、
それは不可能であり、予測できるのは色々の事象のおきる確率だけであると信じられている。
このことは、自然理解に関するこれまでの理想の後退であることを承認せざるをえない。
それは一歩後退であるかもしれないが、しかし、だれもそれを避ける方法を知らないのである。」
― 出典:ファインマン物理学 Ⅴ 量子力学
― ファインマン(著)、砂川 重信(訳)
ニュートン力学は、初期条件と運動法則が分かれば、未来は予測可能であるという世界観です。
これに対して、量子力学が扱うミクロな世界では、個々の結果を事前に確定して予測することはできず、
確率でしか表現できません。この世界観は、仕事の現場にも通じるものがあると考えています。
「何が成功要因だった?」「再現性はあるのか?」「○○だったら成功したのか?」……。
営業会議や経営会議、プロジェクトの振り返りの場で、こんな確認や質問を見聞きします。
制御系の異常やシステムのバグで「それは他の端末や別の条件でも再現するのか?」と
問われるなら分かります。でも、確認を受けているのは、営業や新規事業やプロジェクトの状況です。
競合の動き・担当者との相性・個人の能力・予算の状況・市場環境・タイミング、そして運。
努力で成功確率は上げられても 100%成功する方法はありませんし、失敗を100%避ける方法はありません。
毎回、「それを聞いて、どないすんねん……」と突っ込みたくなります。
「こうだった可能性はあります」「~だったと推測できます」という仮説は話せます。
これが許されず、「本当はどうだったのか」という唯一の答えがどこかに存在する前提で会話が進んだり、
「再現性があるのか」と、あたかも必ず成功するようなニュアンスで使われることがあります。
私には、その世界観にどうしても違和感があります。現実世界は、そんなに単純ではないでしょう?
もちろん、確認者(質問者)の意図は分かっています。
本当に知りたいのは、過去の正解ではなく、未来の成功確率を少しでも上げるヒントなのでしょう。
でも、だったらそんな確認の仕方は、あまりに言葉足らずではありませんか?
私たちが本当に考えるべきことは、「何が正解だったのか」ではなく、
次の機会に成功する確率をどう上げるか、失敗する確率をどう下げるかです。
本来、複雑なものは複雑です。物理も、経営も、プロジェクトマネジメントも、そして AI も。
本質に近づこうとするなら、その複雑さを受け入れるしかないと思うのです。
でも、「この営業手法は再現性が高い」「次にこうすれば必ず成功する」「これさえやれば間違いない」
そんな言葉が、あまりにも安易に使われているような気がするのです。ペルソナも営業ファネルも
カスタマージャーニーマップも、現実を理解するためのモデルであって、現実そのものではありません。
単純な因果に置き換えた瞬間、重要な前提も、例外も、偶然も見えなくなってしまいます。
私たちは、過去を分析しているようでいて、本当は未来の意思決定をしているはずです。だからこそ、
「唯一の正解がどこかに存在する」という前提自体を、一度疑ってみても良いのではないでしょうか。
再現性を求めること自体が間違っていると考えている訳ではありません。過去から学ぶことは重要です。
ただ、それは未来を保証する答えではなく、次の意思決定をより良くするための判断材料に過ぎません。
「世界を単純な因果だけで説明できる」と考えてしまう、その決定論的な思考の方が不自然だと思うのです。
配信日:2026年8月19日
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