【BIコンサルタントが語るコンサルコラム】
第55回:自己ベストのある世界

第55回:自己ベストのある世界

いつもお世話になっております。IT コンサルティングサービス部の長榮(ナガエ)と申します。
システム構築・IT・業務改善・業務改革に関する情報や、業務において日々感じていることを、 この場をお借りしてお話しさせて頂くコーナーです。今回は 55 回目。

高校 2 年生の息子は陸上競技の短距離をやっています。AI の話をした時(※第27回参照)は中学生でした。
彼らの世界では先輩後輩の序列も気遣いもなく、「アイツは強い」「コイツは弱い」と容赦がありません。
ここで表現されている「強さ」の定義は「速い」こと。「何秒で走れるか?」の数字が全てであるようです。
彼らは「自己ベスト」というごまかしの効かない数字を持っていて、余計な説明が要りません。
4継(4×100m)やマイル(4×400m)と呼ばれるリレーメンバーは、基本的にタイム順で選抜されているようです。

最近初めて本格的な競技場に出向き、彼らの走りを眺めているうちに、しばらく考え込んでいました。
「強い」の一言で片づけられ、「能力がタイムという 1 つの数字だけで判断される」シビアな世界が、 羨ましくもあり、怖くもある、何とも言えない複雑な感情です。

仕事の世界はそうではありません。評価軸はいくらでもあるし、曖昧で見えにくく、時に理不尽です。
業務中に「たったの 5 か…」や「私の能力は 530,000 です」などと聞こえると「漫画の話かな?」となります。
そんな妄想をしてしまうくらい、1 つの数字に全てが集約される世界も悪くないな、と思ってしまいました。

良いタイムは、突然出るものではないでしょう。才能や資質という生まれ持ったものも大きいでしょうが、 見えない努力や習慣や自律の積み重ねも、「速さ」という結果になって現れているはずです。
・日々の練習を継続する力
・誘惑やプレッシャーに負けない力
・食事/睡眠/ストレスを管理する力
・本番で実力を発揮する力
…等々

仕事でも同じような構造があると思っています。
以前のコラム(※第50回参照)でも触れましたが、信頼される人は、仕事が速くて早い人が多いように思います。
論点整理、状況把握、次の行動、返信、判断、など。気付けば、そのような人に仕事も相談も集まります。
陸上競技なら自己ベストがあります。順位が振るわなくても、昨日の自分より速く走れれば成長です。
ただ、我々には陸上競技の自己ベストのような、人の能力や成長を端的に表す数字はありません。
「あの人は仕事ができる」と言われても、その中身をきちんと説明するのは難しいよな…、と思うのです。

「「大切なことは言葉にならない」のである。
…(中略)…
それでも懸命に言葉にしてみるのは、言葉にならない世界を伝えたいからである。」
― 出典:養老孟司の大言論Ⅲ 大切なことは言葉にならない
― 養老 孟司 (著)

自己ベストという数字を持たない私たちも、言葉にならないものを抱えているのかもしれません。
数字が語ってくれない世界で、私たちは何を頼りに人を見ているのでしょうか。
これを十分に理解するには、しばらく一緒に働かなければ分からない、というのが私の実感です。

それでも、不思議なことに、仕事が速くて早い人の傍にいると何となく分かります。
ですが、この “何となく” だからこそ、その裏側がとても気になるのです。
・どんな知識を持っているのだろうか?
・どんな経験を積んできたのだろうか?
・何を考えて判断しているのだろうか?

だから「あの人はなぜ速い(早い)のか」「なぜ仕事ができるのか」を、つい観察してしまいます。
競技場で息子たちの走りを見ながら、結局そんなことばかり考えてしまいました。
彼らもいつか、タイムだけでは評価されない世界で、自分なりの「速さ」を試されることになるのでしょう。
いや、その頃には AI が勝手に数値化しているかもしれません。あれ、漫画の話だと思っていたのですが…。

配信日:2026年6月29日

長榮 智和 / Tomokazu Nagae
ITストラテジスト / プロジェクトマネージャ / システムアーキテクト / PMP

2002年新卒入社。大手電機メーカー様の業務に長年従事。要件定義から開発/導入/運用/再構築と各フェーズを経験。 後半の10年程は、SCM・PSI領域の見える化(BI)業務にて PM・IT企画構想担当。中国(蘇州)・インドネシア(ジャカルタ)への海外出張も経験。 現在は、BI・IT コンサルタントとして、業務整理・業務改善・データ可視化などに携わっている。

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