【BIコンサルタントが語るコンサルコラム】
第53回:「急いでくれ」と「できません」の間

第53回:「急いでくれ」と「できません」の間

いつもお世話になっております。IT コンサルティングサービス部の長榮(ナガエ)と申します。
システム構築・IT・業務改善・業務改革に関する情報や、業務において日々感じていることを、
この場をお借りしてお話しさせて頂くコーナーです。今回は 53 回目。

つい先日、お客様からこんな一言をいただきました。
「プロジェクトが停滞したり失敗する原因は、コミュニケーションやで。なぁ、長榮さん…」と。
本コラムに複数回登場しているスコット・バークンさんも、同じようなことを言っています。

「プロジェクトはコミュニケーションを通じてのみ存在し得ます。
近代では、コミュニケーションのボトルネックはスピードではなく、品質となっています。」
― 出典:アート・オブ・プロジェクトマネジメント – マイクロソフトで培われた実践手法
― スコット・バークン (著)、村上 雅章 (翻訳)

「もっとシュっと行かへんのか?」「サクッとやってしまおうや。」「なんでスッと終わらへんねん!」
経営層やビジネス側のステークホルダーから、こうした言葉を頂戴することがあります。

打合せでこれらの言葉が出た瞬間、PG や SE の表情が明らかに曇ります。”IT現場あるある” です。
「今、手順を説明しましたよね?」「このタスクをやらないと次に進めません。」と言い返してしまう。
当然、会話は噛み合わず、場の空気は重くなり、プロジェクトが静かに止まります。

エンジニアは、前提を揃え、要件を定義し、機能に分解し、例外を潰して…と、一段ずつブロックを 積み上げるように思考します。途中の段を飛ばすことは、そのまま品質問題に繋がります。
だから「シュッと行きたい」は、どうしても乱暴に聞こえてしまうのです。丁寧に積み上げてきたブロックを ガシャーンと崩されるような感覚です。「それができたら苦労しないよ…」「また無茶なことを…」と。

一方で、経営層やビジネス側の方々も、何も考えずに言っているわけではないはずです。彼らは彼らで、 別のロジックを積み上げています。市場のタイミングや競合の動き、意思決定の速度といった要素です。
「遅れたら機会を逃す」と時間と戦っているのです。エンジニアが一段ずつ積み上げてきたそのブロックも、 過剰な慎重さや、際限なく膨らむコストを正当化しているように見えているのだと思います。

さて、この現象はよく「技術ロジックと事業ロジックの衝突」と説明されがちですが、もう一歩踏み込んで、 問い直してみたいのです。「ロジック云々より、もっと生々しく人間くさい話では?」という違和感です。
互いが守っているのは、本当に「品質」や「スピード」だけなのですか…?と。

エンジニア側には、こんな思いがあるかもしれません。
「ここで安請け合いして、後で『仕様不足』とか『聞いてない』と言われるのは勘弁して欲しい…」
「急いでやった結果、トラブルになって品質問題になったらコチラが責任を取らされるのでは…」
「時間をかけて積み上げたものを軽く扱われると、自分の仕事そのものが否定されたように感じる…」
そうした不安や責任感、ときに過剰なプライドが、「それはできません」を生んでいるのかもしれません。

また、事業側にも、こんな背景があるかもしれません。
「細かい説明はいいから、とにかく前に進めないと社内で話ができない…」
「ここで判断を遅らせて機会を逃したら、責任を負うのはコチラなんだぞ…」
「慎重すぎる人間だと思われたら、この先、まともな決裁が回ってこなくなるのではないか…」
急かしているその奥にあるのは、「この判断で失敗できない」という立場から来る焦りなのかもしれません。

「根拠のない無茶振り」ではなく「何かを必死に守ろうとしているのかもしれない」と見えたとき、 議論はロジックの話から人の話に移ります。争点そのものがズレていたことに気付くのです。
すると、「できません」ではなく「何かお急ぎの背景ってありますか?」と聞けるようになります。

反論したい気持ちを一旦抑えて、相手が何を守ろうとしているのかを考えてみる。
それは同時に、自分もまた、何かを守ろうとしているのだと気付かされます。

配信日:2026年4月24日

長榮 智和 / Tomokazu Nagae
ITストラテジスト / プロジェクトマネージャ / システムアーキテクト / PMP

2002年新卒入社。大手電機メーカー様の業務に長年従事。要件定義から開発/導入/運用/再構築と各フェーズを経験。 後半の10年程は、SCM・PSI領域の見える化(BI)業務にて PM・IT企画構想担当。中国(蘇州)・インドネシア(ジャカルタ)への海外出張も経験。 現在は、BI・IT コンサルタントとして、業務整理・業務改善・データ可視化などに携わっている。

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