【BIコンサルタントが語るコンサルコラム】
第49回:理想を纏う

第49回:理想を纏う

いつもお世話になっております。IT コンサルティングサービス部の長榮(ナガエ)と申します。
システム構築・IT・業務改善・業務改革に関する情報や、業務において日々感じていることを、
この場をお借りしてお話しするコーナーです。今回は 49 回目。

2002年は私が新卒で就職した年です。大学新卒者の就職率は最も低く、まさにグラフの底。
この頃は「本当の自分」「自分らしく生きる」「自分探しの旅」といった言葉がもてはやされ、 「自分探し」ブームがあったように記憶しています。正直なところ「”本当の自分”って何やねん。 どこにあるねん、そんなもん。全部自分でしかないやろ。」と思っていました。

最近読んだニーチェに関する書籍に、同じようなことが書かれています。著者の岡本裕一朗さんは、 「私たちはニーチェの掌の上で踊らされている」「私たちがいま当然のこととして見なしている 考えの多くが、実はニーチェに由来している」と説いています。

「ニーチェの場合、本当の人格と偽物の人格という発想がありません。すべてが仮面であり、 虚像であると言うのです。逆に言えば、自分自身のありのままをさらけ出すという発想がないわけです。
だからこそ “仮面を愛する” と言われるのですが、人はその場その場で 仮面を変えているのに過ぎないというのはニーチェの主張です。
キャラ変なんて言うのも、ニーチェにとっては当然のことで、”本当の自分” なんて発想は まさにプラトン主義でしかないのです。ニーチェに言わせれば、「そんなものはどこにあるの?」 といった感じで、”本当の” というのを彼は最も嫌うのです。」
― 出典:教養として学んでおきたいニーチェ
― 岡本 裕一朗 (著)

プロジェクト現場では、迷っている暇はほとんどありません。即断・即決を基本としてテキパキ捌かないと、 どんどん自分にタスクが溜まり、「資料できてません…。口頭で説明します…。遅延の原因?私です…。」 などと苦しい言い訳をするハメになるのです。お客様からの急な要望、突発的なトラブル、チーム内の意見対立、 延々続く課題の原因究明等々、判断や決断を先送りすれば、あっという間に収拾がつかなくなります。

そんなとき役立つのが「理想を纏う」という考え方です。
書籍の著者やリーダー像、過去に一緒に業務を行ったエースのお客様、妄想上のスーパー PM などを “理想像” として取り込み纏うことで、いざというときの自分の行動や判断、発言として召喚するのです。
頭の中で思い描くだけで終わらせるのではなく、現実の判断基準とし、実際の行動や発言として 外へ出すことがポイント。これにより、不思議と判断や決断に自信が生まれ、迷いや躊躇が激減します。

タスクの山で身動きが取れない時には、「まず 1 つ終わらせよう」と意図的に呟きますし
(※第12回参照)、
「マズい、やってしまった」と追い詰められても、「失敗はあるよね」と前向きになれるし
(※第35回参照)、
「はぁ、しんど…、孤独感がエグい」と打ちひしがれても、「顔を上げろ!」と囁かれるし
(※第40回参照)、
「この状況をどう打開する?」と相談相手がいなくても、本の中の上司が語り掛けるのです
(※第32回参照)。

こんなことを書くと怒られるかもしれませんが、私の場合の残念な点は「”過去の上司” や “尊敬する同僚” も 理想像に含めると良いですよ」と、どうにも言い切れないところ。これまで身近にはなかなか見当たらず、 結果、理想はもっぱら歴史上の偉人や本の中のヒーローたちに頼ることになりました。

大切なのは、普段から纏う元である “理想” を集めておくこと。手持ちが少ないと、貧弱さや薄っぺらさが 漂います。最初は理想に迷ったり、何だかしっくりこなかったりするもの。積み重ねて繰り返し纏ううちに、 最初は借り物だった理想も、やがて自分の一部になるのです。

このようにして、何層もの理想を纏った結果が、私の人格を形成しています。本当の自分など、 最初からどこにもないのですから。

配信日:2025年12月8日

長榮 智和 / Tomokazu Nagae
ITストラテジスト / プロジェクトマネージャ / システムアーキテクト / PMP

2002年新卒入社。大手電機メーカー様の業務に長年従事。要件定義から開発/導入/運用/再構築と各フェーズを経験。 後半の10年程は、SCM・PSI領域の見える化(BI)業務にて PM・IT企画構想担当。中国(蘇州)・インドネシア(ジャカルタ)への海外出張も経験。 現在は、BI・IT コンサルタントとして、業務整理・業務改善・データ可視化などに携わっている。

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